愛知県西尾市 S邸
愛知県西尾市
住宅
所有者:個人
実施年:2022-2023年
・設計
・監理
・製作家具デザイン
西三河地方、西尾市にある昭和42年建築の平屋の住宅。家の前には、遠く先まで見渡せるほどに田畑が広がり、少し行けば三河湾。そんな場所で、先代まで農家をされていたSさんご一家が代々暮らしてきたおうち。
近年の異常気象や古い住宅ゆえの悩みがあり「夏の暑さや冬の寒さを軽減して、快適に住みやすくしたい」というのが改修にあたっての大きなご希望でした。
基本となる建物の造りは「田の字型」間取りの農家住宅。これまでに、キッチンやユニットバスなどの水回りの新調、和室2室以外の洋室化、建具の新調、屋根の葺き替えなど、リフォームや修繕などを幾度かされていました。
初めての訪問では、建築年情報や建物の印象からは想像していなかったような、古く立派な部材が多く使われているのを目にして、驚いたと同時にその凄みを感じました。
小屋組(天井裏に隠れていた構造部材)には、建築当時に築100年以上とされた民家の解体材が再利用されていたのです。つまり、材料としては少なく見積もっても150年ものです。
また、棟木の真下にある桁行繋ぎ梁は、およそ11mの継ぎ目のない真っ直ぐな1本丸太で、このような梁は見たことがありませんでした。
大黒柱は180mm角のケヤキ。そのほか隅柱など10本の160mm角の柱でできており、しっかりと家を支えていました。
改修プランは、断熱性・機密性を高めるだけでなく、居心地や景色も快適性を高める部分として提案。
この住宅のもつ凄みを活かし、2間を繋げて、小屋組をみせたリビングダイニングとしました。さらに、そこには庭の緑と光を取り込んだ出窓のある土間スペースを設け、ゆったりとくつろげる居場所と景色をつくりました。座敷(仏間)は既存のまま残し、障子をあければLDKとひと繋がりになります。
寝室・浴室・洗面・収納・ランドリースペースなどのプライベートスペースは、建物半分に集約し、来客の動線と交わらないようにLDKや座敷と切り分けました。
内装解体し、構造や土壁がむき出しになった際には、ご主人が幼かった頃の建築時の記憶がよみがえったそうです。土壁の土を運ぶのを手伝われたことや、瓦を上げていた時の様子、ご家族の姿などなど…。
記憶や思い出の残るもの、まだ使える部材はできるだけ活かして、建物が刻んだ記憶とともにまた新たな生活を心地良く重ねていかれることを願い改修しました。